「陛下、たった今偵察に赴いた兵士から、反乱軍の配置図の報告が上がりました」
本陣で重臣達が作戦会議を開いていた場に、ブラウンシュヴァイク側の配置を偵察しに行った兵士からの報告が上がった。
「分かった。それで反乱軍の配置は?」
「はっ、反乱軍は総勢4000、本隊をブラウンシュヴァイク男爵自らが率いており、前衛部隊の指揮官はメルカッツ将軍との報告でした」
「なっ、メルカッツ将軍…」
その名が兵の口から聞かされた時、本陣内部に動揺の空気が流れた。
「しかし何故メルカッツ将軍が…」
「仕方ないだろう、将軍はローエングラム侯の部下以前に、ブラウンシュヴァイク直属の兵士だ」
「そのメルカッツという男は名将なのか?」
メルカッツが敵側に付いた事に関し、様々な動揺が飛び交っていた中、ユキトはメルカッツの技量について訊ねた。
「メルカッツ将軍は先代ローエングラム侯の時代からの老将軍で、戦経験もさる事ながら兵士の人望も厚い。しかしあの男が相手となると少々きついものがあるな…」
「ロイエンタールの言う通りだ。メルカッツ将軍はミッタマイヤー、ロイエンタール両将軍にも引けを取らぬ男、油断は出来ぬ。皆用心して掛かるのだ」
『はっ!』
「大変です!領内にゴブリンの群れが侵入して来ました!その数およそ4000!!」
「4000!?現兵力の2倍ではないか!」
今正にブラウンシュヴァイクとの決戦に向かうという時に突然予想し得ない事態が舞い降り、陣内はより一層の動揺に溢れた。
「まあいい、多少予定が狂うが今から討伐に向かおう」
「陛下!今はブラウンシュヴァイクとの決戦前であり、ゴブリン如きに兵を駆り出す時ではありません!」
「ミッタマイヤー!余はこのローエングラムの地の領主なるぞ!領主が領民の生命を何よりも優先して護らぬとあれば、領主たる資質を疑われるは必定!卿は余に歴史に名を残す悪領主になれと言うのか!!」
「うっ…」
「ミッタマイヤー、陛下の言う通りだ。ここで討って出ねば、ローエングラム侯も所詮侯爵位にすがるだけのブラウンシュヴァイクと同等の器に過ぎぬと評価されるだけだ」
「ロイエンタール…。そうだな…」
親友であるロイエンタールの言葉に同意し、ミッターマイヤーはラインハルトの前に平伏した。
「陛下、先程の陛下の御治世に泥を塗る発言、真に恥辱の限りでございます。このミッタマイヤー、陛下の意のままに従う所存であります!」
「良いミッタマイヤー、頭を上げよ。他に異存のある者はおらぬな?ではこれよりゴブリンの討伐に向かう!」
ラインハルトの掛声により、陣内の重臣達は挙って出陣の準備へと赴いた。
「ふっ、新しいローエングラムの領主が名君だと聞いたが、どうやら本当のようだな……」
「ユキト、卿との契約はブラウンシュヴァイク戦における戦いのみだ。よってこの戦いは契約外の戦いであり、卿が参加する義理はない」
「いや、俺も参加させてもらうぜ、ラインハルト様!」
「ほう、その態度、卿の目には余は敬意を持って応じる者に映ったか…」
「どうやらそのようだな…。まあ、それは態度で表わすさ…。そんな訳だ、この戦いの報酬は必要ないぜ」
「なかなか気の効く男だ、余は卿のような男は嫌いではない。ならばユキトよ、アビスの底まで付いて来るがよい!!」
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SaGa−3「オーディンへの道」
「陛下!囮の兵を使い、ゴブリンの群れを陣地近くまで誘き寄せました!」
「ご苦労だった、ロイエンタール。よし!では今から出撃だ!陣形は縦列陣形、右翼をミッターマイヤー、左翼をロイエンタールが中心になり兵を指揮、そして中央は余とユキトが指揮する!」
『諒解!!』
「ではこれより戦闘態勢に入る。敵は数においては我が軍の2倍だが、奴等は所詮ゴブリン、烏合の衆に過ぎぬ。最後に、命は粗末にするな、この後にブラウンシュヴァイクとの決戦が待ち受けているのだからな!ファイエル!!」
『オオオ〜〜!!』
ラインハルトが鬨の声を上げ、全軍が一斉にゴブリンの群れに向かって行った。
「風が運びし花の香りよ、我に立ち向かいし荒ぶる者共に暫しの安らぎを与えん!ナップ!!」
ユキトが蒼龍術ナップを唱え出すと、ゴブリンの周囲に甘い花の香りが漂い出した。すると匂いを嗅いだ多くのゴブリンは武器を手放し、膝を付くように地面に眠り出した。
「よし、敵が眠っている隙に一気に攻め落とす!!」
その隙を見てミッターマイヤーの指揮する兵が突出し、ゴブリンの群れに襲い掛かった。
『ヒュ、ヒュ、ザシュッ…!!』
素早い兵の動きに多くのゴブリンは目覚めることなく屍の山となり、目覚めた者も落とした武器を拾う間もなく屍へと姿を変えて行った。
「流石は”疾風ウォルフ”といった所か。よし、ミッタマイヤーに続けい!!」
ミッタマイヤーの奮戦に呼応し、続けてロイエンタールの指揮する兵が突出した。
「中々の勇猛振りだな…」
ラインハルト配下のローエングラムの双璧と呼ばれる二人の奮戦を見て、ユキトが素朴な感想を述べた。
「これも卿の術の援護があってこそだ。剣だけでなく術も使うとの噂を聞いたが、大したものだな」
『グアァァァ〜!!』
時間が経つに連れ眠りに就いていたゴブリン共は目覚め出し、数に任した猛攻が激しさを増してきた。
「ふむ、徐々に術の効果が薄れてきたようだな。よし、突出した兵は一時後退せよ!これよりゴブリン共に余の術を浴びさせる!!」
自軍が劣勢になって来たのを見計らい、ラインハルトは突出しているミッタマイヤー、ロイエンタール両部隊に後退を命じた。
「よし、全軍速攻後退!」
「こちらは防御形態を取りながら後退だ!」
ラインハルトの伝令により、ミッタマイヤーの部隊は疾風ウォルフの名に恥じない素早い後退を行い、それに続き後退する兵を守る形でロイエンタールの部隊が後退防御を行った。
「さて、余も卿の戦法に習うとしよう…」
兵士の後退に合わせ、ラインハルトは意識を集中させ、呪文の詠唱を始めた。
「大気を漂いし空気の渦よ、大地を照らす太陽の力を受け我を阻む者に熱き陽炎の舞いを見せられん!ヒートウェイヴ!!」
兵士達が後退し終えたのを見計らい、ラインハルトはゴブリンの群れに向け太陽術ヒートウェイヴを浴びさせた。
『グオワァァァ〜〜!!』
強力な陽炎に包み込まれ、ゴブリンの群れは悲鳴を上げた。致命傷の者はその熱気に絶命し、生き残った者もその熱波により行動の自由を奪われていた。
「よし!敵が怯んでいる隙に全軍突撃を掛ける!!」
ラインハルトの伝令により、全軍が一斉にゴブリンの群れに突撃を開始した。
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その頃、サユリ達はオーディンへ向けひたすら北進していた。
「しかし俺達だけで本当に守り通せるかな……」
「心配すんなって。ラインハルト様から武具の一式を頂いたんだし、何とかなるさ」
ユキトが抜け確実に戦力が落ちたパーティーに杞憂するユウイチに、ジュンが励ましの言葉を掛けた。ラインハルトから渡された防具は兵士の鎧、フルフェイス、ガントレット、小盾と防寒用の毛皮のベストが人数分。武器はそれぞれの特性に合わせ、ジュンにはブロードソード、カオリには戦斧、ユウイチとシオリには長弓が手渡された。
「俺は弓より槍の方が得意なんだが…。まあ、術酒も渡された事だし、これで少しは術を連続して使用出来るか…」
また他に魔力を回復する術酒、体力を回復する技の香薬、傷を癒す傷薬をいくつか手渡された。
「ユウイチ、その酒余ったら俺にもよこせよな」
「ったく、護衛する身だってのに随分呑気だな…。と、無駄口叩いてる間にモンスターのお出ましだぜ!」
談笑に浸りながら森の中を進んでいると、目の前にゴブリンが現れた。
「さっきの汚名返上と行くぜ!」
ゴブリンの姿を見て、早速ジュンが斬りかかった。
「グアッ!」
「よし!」
ジュンの一撃は見事ゴブリンを斬り払い、ゴブリンはその場に絶命した。
「ジュンさん、すごいです。キャ!」
ゴブリンを一撃で倒したジュンの勇姿に感激していたシオリに、突如森の中から這い出た触手が絡んで来た。
「シオリ!」
足を捉えられ森の中に引きずられそうになったシオリの元にカオリが急いで駆け付け、手に持っていた戦斧で森から這い出ている触手を切り落とした。
「大丈夫!?シオリ!」
「うん、大丈夫だよお姉ちゃん」
「来るぞ!」
体の一部を切られながらも生命活動を終わらせていない植物型のモンスタースパイダーローズが、森から這い出て来た。
「皆さん、ここはサユリに任せて下さい。我が体に眠りし熱き魔力よ、真空と交わり形となれ!エアスラッシュ!!」
術を詠唱するサユリの掌中に魔力が結集し、朱鳥術エアスラッシュが解き放たれた。真空の炎の刃と化した魔力の固まりはスパイダーローズに命中し、その体を焼き尽くした。
「すっげぇ〜、サユリ様」
「まさかサユリ様が術を使えるなんて…」
「人は見掛けに寄らないとはこの事ね…」
「本当に凄いです、サユリ様…」
如何にも絵に描いたお姫さんという感じのサユリが術を使った事に、他の四人は皆驚きの声を上げた。
「あははーっ、大した事ないですよ〜。ユウイチさんもおっしゃってたじゃないですか〜、今時術位誰でも使えると」
「まあ、確かに言いましたがね。しかし宮殿生活をしている人が術を唱えられるというのはちょっと以外ですね」
「ふえっ?そういうものなのでしょうか。でもお兄様も太陽術を使えますし、宮殿内の者でも使える人は結構いますよ」
「ご兄妹揃って術が使えるのですね。私も頑張らなくちゃ…」
重い武器を使うのは苦手だから、弓を扱ったり術を唱えられるようになりたい、そう思いシオリは弓や術の鍛錬をしていた。その甲斐あり弓は何とか使えるようになったが、術の方はなかなか上手く使う事が出来ず、まともに成功した事は一度もなかった。そんな折術を使ったサユリの姿を見て感激し、術を扱えるようになりたいという胸の内の思いを一層高めた。いつかは自分もユウイチさんやサユリ様のように術を唱えられるようになりたい、そうすればもうお姉ちゃんから子供扱いされないようになるだろうと……。
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「ゴブリン共が逃げて行くな…。恐らく頭を失ったんだろうな…」
乱戦の中突然撤退して行くゴブリンの群れを見て、ユキトが呟いた。
「低脳の烏合の衆に過ぎぬゴブリンにも一応統率という概念があったのだな」
ユキトに呼応し、ゴブリンを嘲笑うようにラインハルトも呟いた。対ゴブリン戦は数の上で圧倒的不利だったのにも関わらず、負傷者は多数発生したものの奇蹟的にも死者は一人も出なかった。そしてラインハルト軍の眼前には、死屍累々のゴブリンの山が作られていた。
「いずれ地に還えるとはいえ、この屍の山は平原の美観を損なうな…。よし!」
思い立ち、ラインハルトは術の詠唱に入った。
「大地を照らす日輪よ、その聖なる力持て我を阻みし死を受け入れられぬ者共にその明光を与えん!サンシャイン!!」
強烈な太陽の光が屍と化したゴブリン共に降り注いだ。するとその屍の山は浄化されるように大地へと還えって行った。
「元来対アンデット系モンスターに使用する術だが、まさかこういう使い方があるとはな…」
「アンデットモンスターもゴブリンの屍も元の体が”死体”である事に変わりはないからな。物は試しというものだ。平原を焼かずに屍の山のみを焼くにはと考え、多少術の使用をアレンジしたまでだ」
「大変です!ゴブリンが撤退した後方から反乱軍の前衛部隊と思わしき軍勢が出現して来ました!その数およそ2000!!」
「何っ!?しかし妙だな…」
向かって来る軍勢の姿を見て、ロイエンタールは違和感を覚えた。直感的ではあるが、向かって来る部隊から覇気が感じられないと。そしてその違和感は間もなく現実のものとなった。
「!軍勢の中から白旗を持った兵がこちらに向かって来ます!!」
「あの面立ち…なっ、メルカッツ将軍!?」
乗馬しこちらに向かって来る敵軍の兵を肉眼で確認出来るようになり、その面立ちを見てミッタマイヤーは驚愕した。ミッタマイヤーが驚くのも無理はなかった。前衛部隊の指揮に当たっているメルカッツ自ら投降して来たのだから。
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「ラインハルト陛下!陛下は先の領内におけるゴブリンの群れの侵入における際、男爵側が陛下との対決に備え数で勝っているにも関わらず一兵も動かさなかったのに対し、陛下は全軍を持ちこの討伐に赴きました。その姿を見て、ローエングラムの地を治めるのはこの方をおいて他にないと思い、多くの兵を説得し引き連れ、陛下の元に駆けつけた次第でございます。この度従属の関係からブラウンシュヴァイク側に付き、真に恥じるべきでありました!」
馬から降りたメルカッツはラインハルトの面前に深々と頭を下げそう語った。
「良い。卿の忠誠心の深さからブラウンシュヴァイク側に従っていたのは無理もない。寧ろ余が統治者に相応しいと自ら自覚し、ブラウンシュヴァイクを見限り多くの兵を引き連れ、投降した行為は真に大義であった。ブラウンシュヴァイク側に付いた事は一切問わぬ。他の兵士共々反乱軍討伐の戦列に加わるがよい!」
「ははっ!」
メルカッツは再び頭を深々と下げ、一旦引き連れて来た軍勢の元へ舞い戻った。
「もっとも、戦列に加わっても何もやる事はないと思うがな…」
「どういう意味だ?」
ラインハルトの意味深な発言にユキトは疑問を抱き、問い掛けた。
「考えてもみろ。ブラウンシュヴァイクに最も忠実な男が多くの兵を引き連れ投降して来たのだ。この行為によりブラウンシュヴァイク側の兵士に少なからず同様が走るのは自明の理であろう。多くの兵は成り行きやメルカッツに従ってブラウンシュヴァイク側に付いたに過ぎん。メルカッツを除いたブラウンシュヴァイクに忠実な兵など数える位であろう。更にはメルカッツの部隊が合流した事により、数の上でもこちらが有利となった。これらを総括すれば、反乱軍の覇気が地に落ちたと言っても過言ではなかろう」
「成程な。つまり現状では反乱軍が戦わずして降伏するか、尻尾を巻いて逃げるか、どちらかの可能性が最も高いという事だな」
「そういう事だ。もっとも、余は戦って勝利するのを最も望む男だがな。しかし今回の場合、ブラウンシュヴァイク側の兵士が我がローエングラムの兵士である事に変わりはない。よって、仮に余の軍勢に一片の損傷がなくとも、ローエングラムの兵士にそれなりの損害が生じる。よって今回は戦わずして勝利するに越した事はない」
戦においては臨機応変の対応が出来、その上で民や臣下達の事もきちんと見据えている男、これ程までに名君と呼ばれるに相応しい男はいないとユキトは思った。
(しかしこのローエングラム侯と、エル・ファシルの英雄と呼ばれるようになったあの男と、果たしてどちらの技量が上か…?)
ラインハルトの言動を見ている内に、ふとユキトの頭の中にある男の名が過った。
ユキトが仕えていたエル・ファシルは、数年前神王教団の侵略により奮戦空しく滅亡した。国王は神王教団によって処刑され、戦乱の中ミスズ姫は行方不明となった。だが、ある男の裁量により、エル・ファシルの民の多くは大草原を超えた東の黄京に逃れる事に成功した。そしてその男はその功績を称えられ、後にエル・ファシルの英雄と呼ばれるようになった。
(そう、あの男、ヤン=ウェンリーと……)
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「大分雪が激しくなって来ましたね。という事は後もう少しでオーディンに着きますわね」
オーディンは北の厳寒地帯に位置し、サユリ達が近付くに連れ雪の激しさは増していった。
「もう夜も近いしな、早く着かないと凍え死んじまうぜ」
「我慢しろ、ジュン。寒いのはみんな同じだろうが」
雪がちらついて来た辺りから防寒対策として皆毛皮のベストを着用していたが、それでも慣れない寒さに一向は身震いしていた。
「キャ!」
「ビュォォォォォ〜〜!!」」
突然シオリが悲鳴をあげたと思ったら、突如辺りに激しい強風が吹き付けた。
「この風…ただの風じゃないぞ!」
一向に襲い掛かった風は次第に形を整え始めた。それはユウイチの予想通り風ではなく、精霊系モンスターかまいたちだった。
「かまいたち…何でこんな所に…?」
「驚いてる場合じゃないわよ!こいつを倒さなきゃ先に進めないわ!」
驚いているジュンを尻目に、カオリはかまいたちに戦斧で殴りかかった。
「ビュゥゥゥ〜!!」
「キャッ!」
しかしその体から発生している強風に煽られ、近付く事も出来ず、ただ吹き飛ばされるだけだった。
「はあああ!」
手元のブロードソードを抱え、ジュンが突進して行った。
「ビュゥゥゥ〜!!」
「ぐわっ!」
だがカオリと同様、空しく吹き飛ばされるだけだった。
「武器が駄目なら術で…。大地に大いなる恵みをもたらす雨よ、その恵みの柱を鋭利な矛先へと姿を変え、我に襲い掛かる者に裁きの一撃を与えたまえ!スコール!!」
武器は通用しないと判断し、ユウイチは術を唱え出した。しかし酸性の雨はかまいたちには通用しなかった。
「やっぱり駄目か…」
「サユリの朱鳥術なら効くかもしれません。我が体に眠りし熱き魔力よ、真空と交わり形となれ!エアスラッシュ!!」
しかしサユリは思うように真空の刃を作る事が出来なかった。
「駄目です…。寒くて思うように術が…」
北の大地の寒さはサユリから術と唱える力を確実に奪っていた。
(サユリ様…。みんな頑張ってるのにまた私は見てるだけ…。そうだ!あの術を試して見よう!!)
成功するかどうかは分からない、だが自分も頑張らなきゃ行けない。そう思い、シオリは一度も成功した事のない術を詠唱し出した。
「偉大なる大地の恵よ、我の望めしかの者に更なる恵の力を与えん!ベルセルク!!」
シオリは渾身の力を込め、サユリに白虎術ベルセルクを唱えた。すると大地の恵が白虎の幻影となり形作られ、サユリの体の中に溶け込んで行った。
「サユリ様、これで術が唱えられるようになった筈です!」
「ありがとうございます、シオリさん。我が体に眠りし熱き魔力よ、真空と交わり形となれ!エアスラッシュ!!」
ベルセルクの力により本来の力を取り戻したサユリはエアスラッシュと唱える事に成功し、真空の刃と化した炎の力により、かまいたちは消滅した。
「頑張ったわねシオリ、貴方のお陰でかまいたちを倒す事が出来たわ」
「うん、私頑張ったよお姉ちゃん…」
ようやく術が唱えられた、何より皆の役に立てたのが嬉しかった。そんな安堵感を抱いたシオリは、力を使い果たしたかのようにその場に倒れた。
「す〜、す〜…」
「まったく…慣れない事をするからそうなるのよ……」
笑顔で眠りに就いているシオリに呆れながらもカオリは優しく抱き上げ、自分の背中に負ぶった。
「待ってろ、今術酒を…」
「いいわ、ジュン君。魔力を回復するお酒とはいえ、シオリにお酒はまだ早いわ」
「けど、運んでくの大変だろ?」
「別に構わないわ。さっ、早く先に進みましょ」
シオリは女の子とはいえ、負ぶさるのは楽な事ではなかった。しかしカオリはそんなに苦だとは思わなかった。シオリが小さい背中に負ぶった事を思い出し、その感覚の違いからシオリの成長を肌で感じていた。
(シオリももう子供じゃないのね……)
そんな事を自分の心に聞かせながら、カオリはオーディンへの道を一歩一歩踏みしめて行った。
「街の明りが見えて来たぜ!!」
数十分後、街の明りが見えて来た。その時、辺りは既に闇が支配し、星々が輝きを増していた。
…To Be Continued |
※後書き
すみません、やっちゃいました(爆)!
何をやったかと言いますと、「エル・ファシルの英雄、ヤン=ウェンリー」ネタです(笑)。ゲッシア王朝=エル・ファシルのネタを思いついた辺りから閃き、その後どんどん妄想が肥大化し、「やっちゃえ!」という感じに自分を抑える事が出来ずやってしまいました(笑)。本当はもっと後に存在が分かるような展開の予定だったのですが、ヤン提督の名をどうしてもどうしても出したく、このような展開と相成りました(爆)。ただ、名前が出て来る程度で、本格的な活躍はずっと後になりますね。
さて、肝心のストーリーの方は、ようやくオーディンに着きました…(苦笑)。3話費やし、ようやくここかという感じですね。もっとも次回は急展開し、オープニングイベントを一気に終わらせる予定です。楽しみに待っていて下さい。
それと今回下書きに2日、推敲に1日、計3日というかなりの最短ペースで書き上げました。過去最高は2日での仕上げだったのですが、その時は今回の4分の3程度の内容でしたので、ここ最近の1話原稿用紙25枚前後体制の元では過去最高の最短記録という事になります。この勢いで次回も3〜4日の日数で仕上げられるよう頑張りたいと思います。
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